マルサがやってくる!?相続税の税務調査について解説!

2021.11.26

マルサがやってくる!?

税務調査と聞いて、「マルサ」がやってくると思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、相続税の税務調査で突然「マルサ」がやってくることはまずありません。税務署から事前に連絡があり、日程を調整した上で税務調査が行われます。
税務調査を甘く見てはいけませんが、過度に不安がることはありません。今回は「相続税の税務調査」とはどのようなものか解説していきたいと思います。

解説

税務調査とは?

相続税の申告について、申告額が過少であると想定される場合や遺産規模が大きい場合、悪質な不正が見込まれる場合に税務調査が行われます。当然、相続税申告をしなければならない人が無申告の場合にも税務調査が行われます。

例年、税務調査率は12%程度でしたが、令和2年12月に公表された「令和元事務年度における相続税の調査等の状況」「令和元年分 相続税の申告事績の概要」によると、令和元年事務年度(令和元年7月~令和2年6月)の申告件数は147,801件、実地調査件数は10,635件で、税務調査率は約7.2%となっております。平成30年事務年度の実地調査件数は12,463件であったのに対し、令和元年事務年度において件数及び割合が減少しましたが、これは新型コロナウイルスが大きく影響しているのだと思われます。

令和元事務年度では、税務調査に入られた案件のうち85.3%が追徴課税の対象となっています。追徴課税の場合、増えた財産にかかる相続税の「本税」の他に「過少申告加算税」と「延滞税」がかかります。また、無申告の場合には「無申告加算税」、悪質な不正と認められた場合には「重加算税」が課せられます。

税務調査はいつある?

相続税の税務調査は申告書を提出後すぐに行われるのではなく、申告書を提出した翌年、もしくはそのまた翌年に行われることが多いです。また、多くの場合、税務調査は8月から11月に行われます。相続税の時効は法定申告期限の翌日から起算して5年(悪質な場合は7年)のため安心できませんが、法定申告期限の翌日から3年以降に税務調査に入られる可能性は低くなると言えるでしょう。

税務調査がある場合、事前に税務署から電話がありますが、税理士に相続税申告を依頼していた場合にはその税理士宛に電話があります。突然税務署から相続人に電話がくることはありませんのでご安心ください。

税務調査の対象になるのはどんな人?

税務調査の対象になりやすい人は、下記のような人です。

①税理士に頼まず自分で申告をした人
税理士に頼まなかった人は、税理士に頼んだ人に比べて税務調査に入られる割合が高い傾向にあります。毎年の所得税の確定申告とは違い、相続税の申告は一生のうち何度も経験するものではありません。当然、慣れている人はおらず、約85%(平成30年度:「国税庁実績評価書」参照)の方が税理士に依頼をしています。このような現状を踏まえると、一般の方が作成した申告書には不備があるのではないか、財産計上漏れ等があり追加で税金が取れるのではないか、と税務署が思っても不思議ではありません。

②相続税申告に不慣れな税理士に依頼して申告をした人
相続税を専門にしていない税理士の多くは中小企業の顧問として法人税や消費税、社長の所得税などをメインに扱っており、相続税の申告は年に1件あるかないかだと聞きます。また、インターネットで税理士の得意分野が簡単に分かりますし、実際の申告書の添付書類を見ればその税理士が相続税申告に慣れているか一目瞭然です。よって、①の場合と同様に税務署が税務調査に入りたいと思いやすいようです。

③遺産規模が大きい人
遺産が3億円を超えるなど、単純に遺産規模が大きい場合も税務調査の対象になりやすいです。これは、申告漏れを見つけたときに調査官が徴収できる相続税額が大きくなるためです。高額な財産を申告された方は、税務調査が入ることを想定しておいた方がよいかもしれません。ただし、高額な財産を取得しても、小規模宅地等の特例や配偶者控除等の規定により結果として納税額が0円になる申告もあります。そういった申告では税務署は追徴できる可能性が低くなるため、わざわざ税務調査を行ってくることは少ないように思われます。

④名義財産がある人
被相続人以外の名義で被相続人が拠出・管理していた預金や有価証券がある場合にも税務調査の対象になりやすいです。疑義が生じそうなものについては申告の際、しっかり整理しておいた方がよいでしょう。名義財産については2-4で詳しく解説します。

⑤預貯金の移動が多い人
生前の預貯金の移動が多い場合も税務調査の対象になりやすいです。税務署は被相続人や相続人、親族の口座を10年遡って調べることができます。資金移動が多いと相続人や親族の口座に移しているのではないかと税務署が考えてくるかもしれません。そのため、申告を行う際は分かる範囲で預貯金の動きを整理しておいた方がよいでしょう。預貯金の移動については2-6で詳しく解説します。

よくある論点

(1)名義財産

2-3④で触れましたが、名義財産とは、被相続人以外の名義で被相続人が拠出し、管理していた預金や有価証券などです。被相続人が子や孫のために作っていた子や孫名義の預金口座が分かりやすいかと思います。名義預金として財産計上することを避けるためには、財産をもらった本人が通帳を管理し、財産を自由に利用できる状態にしておくことが必要です。当然、財産をもらった際、その年にもらった金額が贈与税の基礎控除額110万円を超える場合には、贈与税の申告をしなくてはなりません。

また、配偶者の預貯金も名義財産として疑われる場合があります。ご高齢の夫婦の場合、夫が外で働き妻は家を守る、といった生活スタイルをとられている方々が多いように思われます。その場合、収入の大半は夫で、妻の収入は結婚前に働いていた際の年金のみ(もしくは収入なし)といった傾向がみられます。この場合において、妻の預金残高が極端に多かったりすると、それは「夫が稼いだお金を妻の口座に移したのでは」と税務署は思う可能性があります。また、大々的に資金移動をしていなかったとしても、生活費をやり繰りした際のへそくりが積もり積もって妻の預金が大きくなるかもしれません。妻の預金が多額であるということだけで、全てを名義財産として計上しなくてもよいかもしれませんが、妻の預金がどのように形成されたかを申告する際に整理した方がよいでしょう。

(2)贈与

年間110万円以下の贈与は非課税、ということをご存じの方が増えてきていると思います。確かに年間110万円以下の贈与(暦年贈与)は非課税なのですが、毎年決まった時期に決まった金額を贈与していると定期贈与とみなされてしまう可能性があります。

定期贈与とは、定期の給付を目的とする贈与のことで、一定期間、一定の給付を目的に行う贈与のことです。例えば、1,000万円を10年間で100万円ずつ毎年贈与するという取り決めをしたとします。すると、贈与の開始時(1年目の贈与をした時点)にすべての金額(1,000万円)を贈与する意思があったとみなされ、全ての金額(1,000万円)について贈与税がかかってします。贈与税が0円と思っていたのに177万円((1,000万円-110万円)×30%-90万円)(直系尊属からの贈与(特例贈与財産を前提))の贈与税がかかってしまいます。

定期贈与を疑われないために、毎年違う時期に違う金額を贈与し、その際は贈与契約書を作成しておくとよいでしょう。また、贈与契約は「あげた」、「もらった」という双務契約です。贈与を受けた場合は、贈与を受けた人がその口座を管理しましょう。名義預金を疑われないために、入金口座は贈与用ではなく普段使いの口座がおすすめです。

(3)預貯金の移動

2-4.や2-5.にも関わりますが、預貯金の移動について税務署は注意深く見てきます。税務署はKSK(国税総合管理)システムにより、過去の申告データ(所得税、固定資産税など)を集計しており、被相続人の遺産規模の予測を立てています。予測と申告した財産額との間にズレがある場合、財産の移転があったのではないかと被相続人や相続人、親族の口座を過去に遡って調査します。亡くなった方ご本人ではないので預貯金の移動について全てを把握することできないかもしれませんが、申告を行う際にできるだけ整理しておきましょう。

また、タンス預金はバレないだろうと思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、過去の出金について税務署は調べているので簡単に見つけることができます。隠し事はできませんので正しく申告しましょう。余談ですが、台所の流しの下に多額の現金を保管されていた方がいらっしゃいました。

税務調査に入られないために

当然ですが、税務調査を受けたい人はいません。税務調査を100%回避できるとは言えませんが、次の点に注意すればリスクを減らすことができるでしょう。

①財産状況を家族で共有しておく
被相続人の財産を遺族が把握していないために相続税の申告漏れが起きてしまう場合があります。家族が知らない預金口座や高価な収集品、知人とのお金の貸し借りなどです。そういった財産(もしくは債務)を見つけるのは非常に手間ですし、見落としてしまう恐れもあります。そのため、生前のうちにどんな財産がどのくらいあるのか家族で共有しておくのがよいかもしれません。また、財産状況を家族に伝えることに抵抗がある場合には、財産リストを作っておき、もしものときはそのリストを見るように伝えておくとよいでしょう。

②資金移動について証拠や記録を残しておく
先にも述べましたが、税務署は被相続人や相続人、親族の口座を10年遡って調べることができます。家族間でのお金の動きは把握されますし、行き先不明の大きな出金があれば税務調査のリスクが高まると思われます。 家族間でのお金の動きについて、それが贈与であれば贈与契約書を作成し、証拠を残しておくとよいでしょう。証拠がないと名義預金を疑われてしまうかもしれません。また、大きな出金があれば、それが何のために引き出して使ったのか記録、タンス預金として手許に残しているのであればその旨も記録しておくとよいでしょう。いざという時に疑われること、分からないことを少しでも減らしましょう。

③正しく丁寧に申告する
兎にも角にも正しく申告することが大切です。財産の計上漏れや計算ミスがないか注意しましょう。また、財産調査をきっちりしたことを示す根拠書類を見やすく添付すれば「申告漏れ」がない印象を与えることができるかもしれません。
正しく丁寧な申告は、慣れていない方には非常にハードルが高いと思います。税務調査のリスクを低減させるために相続専門の税理士にご依頼することお勧めします。

まとめ

今回は相続税の税務調査について解説いたしました。調査対象になりやすい人やよくある論点について触れましたが、故意に財産を隠しているのでないならば税務調査を必要以上に不安に思うことはありません。税務調査対策で何よりも大切なのは、もしも調査に入られても問題のない申告をすることです。相続税申告の際は相続専門の税理士に是非ご依頼ください。

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