生前対策に贈与は有効?
2020.12.28贈与税の種類
相続税は死亡した際の遺産が相続人に受け継がれる場合にかかる税金ですが、財産が多ければ多いほど、その分相続税の負担も大きくなります。そのため、生前対策として贈与を検討されている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、贈与税の仕組みを理解していないと、贈与したとしても、生前対策の効果が薄れてしまい、本来より多く納税してしまう可能性があります。
そこで今回は、贈与税とは?という基本的なところから相続税との関係についてご紹介します。
贈与税とは?
贈与税を理解する上で重要なことは、贈与は一方的な意思だけで成立するものではないということです。贈与する人とされる人との間で、あげた・もらったことを認識していないといけません。また、贈与税とは、個人から財産を受け取ったときにかかる税金です。財産を受け取るだけではなく、債務を免除される等の利益を受けた場合も贈与税の対象となります。
贈与税には暦年課税制度と相続時精算課税制度の2種類あり、同じ贈与税でも税率や基礎控除額等、違いが多くあります。
暦年課税制度とは?
1月1日から12月31日までの1年間で受け取った贈与の財産額の合計に、基礎控除額の110万円を差し引いた金額に税率を乗じて計算されるものです。税率は最低10%から最高55%までの超過累進税率を採用しています。
相続時精算課税制度とは?
贈与した年の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母からその年の1月1日時点で20歳以上の子または孫に対して財産を贈与した際に、この制度を選択することで適用されるものです。この場合の贈与税の額は、財産の価額の合計額から、複数年にわたって利用できる特別控除額の2,500万円を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて算出します。
暦年課税制度と相続時精算課税制度のメリット・デメリット
どちらの制度を使って贈与するのが有利になるのか、メリットとデメリットを比較して考えていきます。【暦年課税制度】
<メリット>
- 長い期間もしくは贈与する相手が多い場合は多額の贈与が可能
- 3年以上前の贈与は相続税の対象外
- 相続人以外にも贈与できる
- 1年に1人110万円以上贈与すると税金がかかる
- 3年以内の贈与は相続税の対象となる
- 3年以上前の贈与の税率が相続税の税率を上回る可能性がある
<メリット>
- 2,500万円までは非課税
- 相続税の課税価格の合計額が、基礎控除以下となれば税金がかからない
- 評価額が変わる財産を贈与した場合、相続税算出の際、贈与時の評価額で計上されるため、相続税を抑えられる可能性がある
- 選択すると暦年課税制度へ変更できない
- 相続税がかかってしまった場合、生前対策としての効果がない
- 贈与者・受贈者に適用条件がある
- 評価額が変わる財産を贈与した場合、相続税算出の際、贈与時の評価額で計上されるため、相続税が高くなる可能性がある
相続税と贈与税の関係
前章では、贈与税についてご紹介しましたが、では実際に相続税とどのように関わってくるのでしょうか。2種類の課税制度の違いがどのように相続税に影響するのかを比較していきます。
相続税と暦年課税制度に基づく贈与税の違い
違いの一つ目は基礎控除額です。相続税は最低でも3,600万円で、相続人が1人増えるごとに600万円ずつ基礎控除額が加算されていきます。一方で贈与税は先ほども述べましたが、財産額に関係なく受贈者1人につき年間110万円と決まっています。次に、税率の違いです。どちらも、最低10%から最高55%までの超過累進税率を採用していますが、贈与税の方が課税される最低限度額も低く設定されていて、税率の累進性も相続税率より急になっています。
【贈与税】(直系尊属から成年へ)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万以下 | 10% | ― |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万以下 | 10% | ― |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
法定相続分に応ずる取得額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ― |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税と相続時精算課税制度に基づく贈与税の違い
暦年課税制度と同様に税率が違っています。また、相続時精算課税制度での控除額は、一度の贈与で使い切ってしまうものではなく、複数年にわたり利用でき、相続時精算課税の利用を選択してからの累計となるので、特別控除となります。特別控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
一律 | 20% | ― |
暦年課税制度と相続時精算課税制度を相続税の関係から比較すると…
この2つの制度を相続税の関係から比較するとどういった違いがあるのでしょうか。まず、加算対象となる贈与財産が違っています。暦年課税制度では、相続開始前3年以内に贈与された財産のみが加算対象となります。一方相続時精算課税制度では、相続時精算課税を選択した年以降の贈与財産全てが加算対象となります。
2点目の違いは、適用対象者です。暦年課税制度では、相続や遺贈により財産を取得した場合のみ適用となるのに対し、相続時精算課税制度では、たとえ相続放棄したとしても、適用対象となります。
生前対策として贈与を有効活用するには?
前章までに確認した通り、課税対象となる財産の価額が同じでも、一度に贈与してしまうと贈与税の方が税負担は大きくなることが分かります。しかしながら、死亡した時点での遺産額が課税対象の相続税は、遺産額やそれに基づく税金を自由に決めることができません。それに比べて贈与税は、どのくらい贈与するかを自由に決めることができますから、税負担を比較しながら毎年の贈与額を決定することができます。
まとめ
生前対策として贈与を考えたときに、一概に贈与が節税となるわけではありません。相続税と贈与税のどちらで課税される方が有利なのか、贈与をした場合、暦年課税制度と相続時精算課税制度のどちらがいいのかを十分検討してから実行することが大切です。今回だけの相続税対策を考えず、その未来の未来まで考えた生前対策をおすすめします。