新制度の相続税評価減額!土砂災害特別警戒区域内にある宅地について

2022.05.06

はじめに

2018年の西日本豪雨や、2019年の台風被害、2020年7月の九州北部豪雨など、近年、台風やゲリラ豪雨の増加に伴い、土砂災害が増加しています。これを受け、土地の相続税評価について見直しが行われました。「土砂災害特別警戒区域内にある宅地」については、評価減の対象となっています。そこで今回は、土砂災害特別警戒区域内にある宅地の相続税評価についてご紹介します。

土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価

減額制度について

近年、自然災害の増加により、下記の②の土砂災害特別警戒区域に指定される土地の件数が増加していることを受け、平成31年1月1日以降の相続開始案件から、相続の対象となる土地が、この土砂災害特別警戒区域内に存する場合は、評価額を減額することが出来るようになりました。

土砂災害の危険性のある土地の種類について

土砂災害の危険性のある土地については、土砂災害防止法に基づき、「①土砂災害警戒区域」と「②土砂災害特別警戒区域」の2種類に分けられています。いずれも都道府県知事が指定するものとなります。

土砂災害警戒区域(イエローゾーン)

土砂災害警戒区域とは、急傾斜地の崩壊、土石流、地すべりにより、建築物に損壊が生じ住民等の生命または身体に危害が生ずるおそれがあると認められる区域とされています。また、災害情報の伝達や避難が早くできるように区市町村により警戒避難体制の整備が図られています。この区域は、イエローゾーンとも呼ばれています。

土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)

土砂災害特別警戒区域とは、土砂災害警戒区域のうち、急傾斜地の崩壊等により、建築物に損壊が生じ住民等の生命または身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる区域とされています。また、一定の開発行為の制限や居室を有する建築物の構造規制が義務付けられています。この区域は、レッドゾーンとも呼ばれています。

※土砂災害防止法とは
土砂災害から国民の生命を守るため、土砂災害のおそれのある区域について危険の周知、警戒避難態勢の整備、住宅等の新規立地の抑制、既存住宅の移転促進等のソフト対策を推進しようとするものです。

引用:国土交通省「土砂災害防止法の概要

土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域の違い

開発行為の規制 建造物の構造規制 評価における評価減
イエローゾーン
レッドゾーン
※宅地の評価における評価減は、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)のみが対象となります。

土砂災害警戒区域(イエローゾーン)と土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の違いは、開発行為の規制、建築物の構造規制があるかないかです。相続税の土地評価では、宅地の活用にあたり「制限や規制があるか」という点に重きが置かれるため、今回の新制度では土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)のみが対象となります。

土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価方法

土砂災害特別警戒区域内となる部分を有する宅地の価額については、その土砂災害特熱警戒区域の地積の割合に応じて、次の「特別警戒区域補正率表」に定める補正率を乗じて計算した価額によって評価されています。
宅地の評価額=路線価×奥行価格補正率等×特別警戒区域補正率×地積(㎡)


【特別警戒区域補正率表】
特別区域の地積/総地積 補正率
0.10以上 0.90
0.40以上 0.80
0.70以上 0.70
また、土砂災害特別警戒区域内にある宅地にはがけ地を含む場合もあると考えられます。
がけ地にはがけ地の方角やがけ地の占める面積の割合に応じて減額補正ができる規定(がけ地補正)が適用される可能性があります。
評価通達20-5((がけ地等を有する宅地の評価))における付表8に定めるがけ地補正率の適用がある場合においては、「特別警戒区域補正率表」により求めた補正率にがけ地補正率を乗じて得た数値を特別警戒区域補正率とし、その最小値は0.50とされています。

宅地の評価額=路線価×奥行価格補正率等×特別警戒区域補正率(注)×地積(㎡)

(注)特別警戒区域補正率表の補正率×がけ地補正率=特別警戒区域補正率
(特別警戒区域補正率が0.50未満になる場合には、0.50となります)

特別警戒区域内にある宅地の場合



上図より、①総地積に対する②特別警戒区域となる部分の地積の割合は、
100㎡/400㎡=0.25
これを上の補正率表と照らし合わせると、補正率は0.90となります。
これをもとに評価額を計算すると、
路線価100,000円×奥行価格補正率1.00×特別警戒区域補正率0.9×地積400㎡
=36,000,000円
となり、本来の評価額より10%の減額となります。

特別警戒区域内にある宅地でがけ地等を有する場合



上図より、①総地積に対する②特別警戒区域となる部分の地積の割合は、
300㎡/400㎡=0.75
これを上の補正率表と照らし合わせると、補正率は0.70となります。
また、①総地積に対する③がけ地部分の地積の割合は、
200㎡/400㎡=0.5
がけ地の方位が南であることから、がけ地補正率表より補正率は0.82となります。

これらをもとに評価額を計算すると、
路線価100,000円×奥行価格補正率1.00×特別警戒区域補正率0.57(注)×地積400㎡
=22,800,000円
(注)0.70×0.82=0.574→0.57(小数点以下2位未満切捨)
となり、がけ地補正率のみを適用した評価額より約30%の減額となります。

参考:国税庁「がけ地補正率表

市街地農地等の適用

市街地農地等、宅地に状況が類似する雑種地または市街地農地等に類似する雑種地が特別警戒区域内にある場合には、農地を宅地に転用する場合または雑種地を宅地として使用する場合には、その利用が制限されることから減価が生ずることになるため、「土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価」の適用対象となるとされています。

倍率地域に所在する特別警戒区域内にある宅地

特別警戒区域内の宅地の固定資産税評価額については、特別警戒区域の指定による土地の利用制限等が土地の価格に影響を与える場合には、当該影響を適正に反映させることとされており、特別警戒区域に指定されたことに伴う宅地としての利用制限等により生ずる減価は、既に固定資産税評価額において考慮されていると考えられています。
したがって、倍率地域に所在する特別警戒区域内にある宅地については、「土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価」の適用対象としていないとされています。

引用:国税庁「『財産評価基本通達の一部改正について』通達のあらましについて 別添 土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価

土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価の調べ方

相続の対象となる土地が土砂災害特別警戒区域に指定されているかどうかは、国土交通省のハザードマップポータルサイト、東京都建設局や各市町村のホームページ等で確認することが出来ます。
例として、東京都千代田区のハザードマップを見てみましょう。


黄色で塗られている部分がイエローゾーン、すなわち土砂災害警戒区域で、赤色の部分がレッドゾーン、すなわち土砂災害特別警戒区域となります。

どなたでも簡単に確認することが出来ますので、その他の災害のリスクを知るためにも、是非一度、調べてみてはいかかでしょうか。

宅地の過大評価で相続税を必要以上に支払うような失敗をしないために

ご相続が発生した際、遺産総額が基礎控除額を超えているか否か、申告義務があるか否か等を検討する場合、土地については遺産総額のうち多くの割合を占めることから、その評価額の計算が重要となってきます。
今回ご紹介の「土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価」を含めて、土地の評価を行う際には検討すべきポイントが多岐にわたります。これらのポイントについてご自身で確認することは難しいものと思われます。
税金の専門家である税理士についてもそれぞれ得意分野があり、相続税を専門にしていない税理士の場合、相続専門の税理士に比べて土地の評価額が過大となる場合もあります。評価額が過大であった場合、一定期間内に「更正の請求」というお手続きにより、税金の還付を請求することは可能ですが、手続きや税務署とのやり取りなどに時間がかかります。
相続税については、相続税専門の税理士にご依頼することをおすすめします。

土砂災害特別警戒区域内にある宅地に関するよくある質問

土砂災害特別警戒区域内はどんな土地が多いですか?

土砂災害警戒区域については、以下のように基準が設定されています。
■急傾斜地の崩壊
イ 傾斜度が30度以上で高さが5m以上の区域
ロ 急傾斜地の上端から水平距離が10m以内の区域
ハ 急傾斜地の下端から急傾斜地高さの2倍(50mを超える場合は50m)以内の区域
■土石流
土石流発生のおそれのある渓流において、扇頂部から下流で勾配が2度以上の区域
■地滑り
イ 地滑り区域(地滑りしている区域または地滑りするおそれのある区域)
ロ 地滑り区域下端から、地滑り地塊の長さに相当する距離(250mを超える場合は、250m)の範囲内の区域

土砂災害特別警戒区域については、上記の区域のうち、建物等が損壊することなく耐えられる想定を上回る地域とされています。

引用:国土交通省「土砂災害防止法の概要 P.5

参考:e-GOV「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律施行令 第2条、第3条


他に適用を併用することができる評価減の制度はありますか?

「土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価」に該当する場合でも、奥行価格補正率や不整形補正率等の各種補正率を適用することができます。


土砂災害特別警戒区域内の評価減は後から修正申告することができますか?

相続税の申告書を提出した後に、土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価が適用できると判明した場合には、申告期限内であれば訂正申告、申告期限後であれば更正の請求が可能となります。

まとめ

今回、「土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価」について、ご紹介しました。
土地の評価については、他にも評価を下げることができるいくつかのポイントがあります。これらのポイントを確認し、土地の評価額をいかに下げられるかが、相続の計算においては重要です。相続税については、専門の税理士にご相談することをおすすめします。

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