配偶者の相続税が控除される?知っておくべき特例のメリットやデメリット

2022.11.29
被相続人(亡くなった方)の配偶者は、常に相続人となります。また、配偶者は、相続割合が他の相続人と比べて多いため、多くの財産を取得することができます。
では、その分、配偶者が支払う相続税の負担は重くなってしまうのでしょうか?
実は、そうではありません。配偶者は、故人と長年にわたり苦楽を共にし、協力しながら財産を築いてきました。また故人亡き後も、配偶者の人生は続いていきます。
そんな配偶者の生活を守るために、配偶者にのみ特別に認められる制度が設けられています。
今回は、配偶者に適用されるさまざまな節税対策についてご説明いたします。

はじめに



配偶者が受けられる節税対策は以下の通りです。
  • 配偶者の税額軽減の特例
  • 贈与税の配偶者控除
  • 特定贈与財産についての生前贈与加算の不適用
  • 小規模宅地等の特例
この4つの制度と配偶者居住権という配偶者のみに認められた特別な制度について詳しく説明していきます。

配偶者の税額軽減の特例

ここからは、配偶者の税額軽減の特例についてご紹介します。

配偶者の税額軽減の特例ってどんな制度?

配偶者の税額軽減の特例とは、配偶者が相続する財産の遺産総額が、下記の金額のどちらか多い金額までは、相続税がかからないという制度です。
  1. 配偶者の法定相続分相当額
  2. 1憶6,000万円
配偶者は、相続した財産が1億6,000万円以下であれば相続税は発生せず、もし1億6,000万円を超えている場合でも法定相続分の範囲内であれば、相続税がかからないようになっているのです。

二次相続の際には要注意!

一見するとお得に思える配偶者の税額軽減の特例ですが、適用の際には注意が必要です。
被相続人の配偶者が亡くなった時の相続のことを「二次相続」と呼びます。配偶者は、被相続人と年齢が近い場合が多く、被相続人が高齢であるほど、二次相続が続けて起こる場合があります。

では二次相続の際に、何が問題となるのでしょうか。具体例を用いて見てみましょう。
  • 被相続人:父
    父の財産:1億5000万円
  • 配偶者:母
    母の財産:1億円
  • 相続人:子供二人
上記の場合、父が亡くなった際に配偶者である母が全部財産を取得したとすると、1億6,000万円以下なので、一次相続における相続税は0円となります。しかし二次相続の際には、父と母の財産を合計した2億5,000万円を子供2人で相続することになるので、結果的にトータルで4,920万円の相続税を支払うことになります。

それでは、配偶者の税額軽減の特例を適用しなかった場合、どうなるのでしょうか。
一次相続の際に母が財産を相続せず、子供2人で相続したとします。その場合、一次相続の際には1,495万円の相続税を支払わなければいけませんが、二次相続の際には770万円となります。結果的には、トータルで2,265万円の支払いで済むのです。

このように、特例を適用することによって、逆に損をしてしまうこともあります。最終的に損をしない相続税の計算をすることは、専門家でないとなかなか難しいです。
二次相続のことまで考えた対策をしたいという場合には、相続専門の税理士へご相談されることをお勧めします。

贈与税の配偶者控除

ここからは贈与税の配偶者控除についてご紹介します。

贈与税の配偶者控除ってどんな制度?

贈与税の配偶者控除とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で自宅や自宅を取得するための金銭を贈与した場合に2,000万円までは贈与税が非課税になるという制度です。

贈与税の配偶者控除にはメリット・デメリットがある!

贈与税の配偶者控除の適用のメリットとしては、以下の2つが挙げられます。
  1. 本来相続税よりも税率が高い贈与税を負担せずに相続財産を減らすことができる
  2. 贈与税の基礎控除と併用できるため、実質2,110万円まで贈与税が非課税となる
これだけ見ると、適用するほうがお得に思えますが、相続税の節税対策という観点においては、デメリットもあります。
  1. 相続税がそもそも発生しない場合は、相続の節税対策にならない
  2. 生前贈与をすることで、不動産取得税がかかる
  3. 登録免許税が贈与だと2%かかる(相続の場合0.4%)
このように、必ずしも生前贈与の対策が相続の際の節税につながるとは限らないので、適用の際には注意が必要です。

特定贈与財産についての生前贈与加算の不適用

次に特定贈与財産についての生前贈与加算の不適用についてご紹介します。

特定贈与財産ってなに?

特定贈与財産とは、相続開始の年の前年以前に配偶者が贈与により取得した財産で、贈与税の配偶者控除の適用を受けたもの(居住用不動産の取得に充てるための金銭も含みます)、あるいは受ける見込みの財産のうち、その控除額に相当する部分のことを指します。

特定贈与財産についての生前贈与加算の不適用ってどういうこと?

本来は相続税の計算上、贈与者が亡くなった場合に相続の開始日から3年までさかのぼって贈与者から贈与を受けた財産については相続財産に加算され、既に納付済みの贈与税分を控除された相続税が課税されることになります。これを「生前贈与加算」といいます。
しかし、特定贈与財産についてはこの生前贈与加算の対象外となるため、贈与税や相続税を支払うことなく配偶者へ不動産を贈与することができるのです。

小規模宅地等について相続税の課税価格の計算特例

ここからは、小規模宅地等について相続税の課税価格の計算特例についてご紹介します。

小規模宅地等の特例って?

小規模宅地等の特例とは、被相続人の居住用・事業用・貸付事業用の土地で一定の要件を満たす場合には、相続税の計算を行う際の不動産の評価額を最大80%(貸付事業用は50%)減額するという特例です。

小規模宅地等の特例の適用を受けるとなると、本来はその物件を相続開始時から相続税の申告期限(相続発生を知った日から10か月後)まで、所有・継続していなければならないという規定があります。(居住用なら居住用、事業用なら事業用、貸付事業用なら貸付事業用として)

しかし配偶者は、小規模宅地等の特例の中でも「特定居住用宅地等」の場合に限り、配偶者が相続によって取得した場合は、この規定が適用されないため、相続税の申告期限を待たずしてすぐに売却等をすることが可能です。

注意!特例が使えるのは特定居住用宅地等のみ!

この制度は先に述べた通り、「特定居住用宅地等」にのみ適用が可能となっており、事業用宅地等には適用できませんので注意が必要です。

配偶者居住権

ここでは配偶者居住権についてご紹介します。

配偶者居住権ってなに?

配偶者居住権は、平成30年の民法改正により創設された、いわば「被相続人の配偶者が被相続人死亡後の居住場所や老後の生活費等に困らないようにするため」の規定です。

民法改正前は、被相続人死亡後も配偶者が居住していた建物に居住し続ける場合には、「配偶者が建物を取得する」または「新たな所有者と賃貸借契約を結ぶ」必要がありました。
しかし、上記の場合「居住建物の評価額が高い場合には他の財産(預貯金など)を取得することができず、老後の生活費に困窮する」または「新たな所有者との賃貸借契約が結べない場合には配偶者の居住場所を確保できない」という懸念がありました。
そこで、民法改正によって、建物の所有権を「配偶者居住権」と「負担付所有権(配偶者居住権の負担の付いた所有権)」に分けることにより、建物の所有権を取得しなくても、配偶者に居住建物の使用のみを無償で認める権利(いわゆる居住権)を創設し、遺産分割の際に配偶者が居住場所と生活費の両方の確保が可能となったのです。令和2年4月1日以降に発生した相続から新たに認められた権利になります。

配偶者居住権のメリット・デメリットは?

配偶者居住権のメリットとしては、以下の2つが挙げられます。
  1. 被相続人が亡くなった後も今まで住み続けていた自宅にそのまま住み続けることができる
  2. 建物以外の財産を取得しやすくなり、老後の生活費を確保できる
デメリットは、主に以下の2つです。
  1. 配偶者居住権が設定されたままだと、売却ができない
  2. 配偶者居住権の設定手続きが複雑である

配偶者の相続税対策に関するよくある質問

配偶者の相続税対策に関するよくある質問をご紹介します。

配偶者居住権を譲渡することは可能ですか?

譲渡することはできません。
売却することも相続することもできない、相続時点で自宅に住んでいた配偶者にだけ認められる権利です。


配偶者居住権で節税対策できますか?

節税できる可能性があります。
配偶者居住権を設定した不動産は相続税が課税されないためです。
しかし、節税対策のためだけに配偶者居住権を設定すると、設定を解除するために複雑な手続きを行わなければなりません。また、シミュレーションをしてみないと本当に節税効果が高いか判断が難しいため、専門家へご相談することをおすすめいたします。


配偶者として受けられる特例は特定居住用宅地等以外にも適用できますか?

特定居住用宅地等以外は適用できません。
事業用・貸付事業用宅地等の場合は、申告期限まで所有・継続しなければならないため注意が必要です。

まとめ

今回は、配偶者にのみ認められる5つの特例についてご紹介させていただきました。どの制度も正しく適用すれば節税対策となり、誤って適用してしまうと逆に損をしてしまうことにもつながりかねないことがお分かりいただけたのではないでしょうか。
ご紹介した注意点のほかにも、今回ご紹介していない細かな適用要件もあります。どの特例を適用すれば、適切な相続税対策が可能なのかを判断するのはとても難しいことです。そのようなお客様をサポートするために、私たち専門家がいます。相続税対策についてお困りの際は、ぜひ税理士法人NCPにお気軽にご相談ください。

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